ご挨拶
本協会は、大学・短期大学(以下、大学)教育における大学と社会をつなぐ実務教育の必要性を訴え、全国に先駆けて1973年に設立され、以来、社会のニーズを踏まえた教育を幅広く展開できるように、実務教育の普及に努めてまいりました。 現在、本協会は大きく(1)大学における資格教育による自律的な実務者の育成、(2)実務教育力を備えた教育者の養成、(3)産学官ネットワークの構築による実務実践研究の3事業に取り組んでいます。 |
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このたび森征一前代表理事・会長の後任として、本年5月9日をもちまして本協会の代表理事・会長に就任いたしました。和野内先生、森脇先生そして森先生の三代にわたる歴代会長の下でお世話になり、もとより微力ではございますが、厳しい大学状況にあって本協会の一層の充実発展に努力をつくす所存でございますので、なにとぞご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
さて、最近、高等教育界を揺り動かす衝撃的なニュースが目立っています。第1に、2024年文部科学省が発表したデータによれば、少子化に影響を受けて今後10数年後の2040年代には学生定員10万人が不要となり、それは私立大学・短期大学の2割にあたる約170校に相当するものであるという。2割の私立は淘汰されるという数字でもあります。
第2は、学校教育法の一部改正を受けて、専門学校専修学校専門課程において、生徒から学生への名称変更、学習時間数から単位制度の導入可能、特定専門課程(修業年限が2年以上で、文部科学大臣の定める基準を満たす専門学校)修了者には大学入学資格が、さらに特定専門課程に専攻科(1年以上)を設置し修了すれば大学院入学資格が与えられるというものであります。2026年度から実施される専門学校制度改革です。
そして第3は、上記と関連して日本の教育資格枠組み案の登場であります。初等教育から高等教育に至る教育資格レベルにおいて、高等教育に相当する5レベルに短期大学士、短期大学士(専門職)、準学士と並んで専門士(専門学校修了)や修了証書(専攻科2年以上)を、また6レベルに学士(4年制)、学士(専門職)と並んで高度専門士(専門学校の特定課程修了)を設定していることです。教育資格の国際的通用性が名目とはいえ、アメリカでも見られない学位と称号との無謀な並置であると思います。高等教育の質保証や学修成果の把握・可視化が叫ばれ、各大学・短期大学が学生募集に取り組んでいる中で、こうした高等教育政策は学位の本質や制度の体系性を無視しかねない方向にあると危惧しています。
加えて第4に、2025年2月に発表された中教審の『知の総和』の答申です。高等教育全体の規模の適正化が大きな柱の一つになり、その中で厳格な設置認可の審査への転移とともに、大学の再編・統合の推進、規模の縮小や撤退への支援が盛り込まれました。学生募集の停止や廃校が現実化し、大学の淘汰の時代を迎えようとしている中で、とくに私立大学・短期大学にとってはさらに厳しい運営を迫られています。関連して、地域のアクセス確保のための国の支援策として、この4月には文部科学省に大学振興課とは別に「地域大学振興室」が設置され、地方自治体と大学が一体となってこの難局を乗り切らなければならなくなっています。
他方ではまた、新たな質保証・向上システムとして、これまでの認証評価制度の見直しに着手されることになりました。具体的には、機関別認証評価に代わって、学部・学科等の学位プログラムについて数段階の認証評価への移行です。各大学における学修成果の把握・可視化が進み、他方では文科省主導の全国学生調査の本格実施が行われようとしており、これらのデータも活用した段階評価の実施方策となることが予想されます。この間進められてきた学修者本位の教育や出口の質保証は、わが国の高等教育システムの再構築のためには必要なものであり、政策的にも個々の大学においても必要なことであることは言うまでもありません。
こうした『知の総和』答申を含めた政策動向は、学生募集に苦戦を強いられているとくに地方の私立大学・短期大学にとっては頭の痛いものではあるが、わが国全体の高等教育システムの再構築を目指すためには、もはや発想を変えて取り組むことが必要ではないかとも考えています。つまり、かつての専門職大学・短期大学の登場の際にも議論があったように、他学校種との対立・競合から協力・連携へとベクトルを切り替え、長年続いてきたわが国の偏差値主義の脱皮を図り、新たな個性値あるいは付加価値を重視する教育へと転換することです。そうすれば、まさしく答申の副題である「高等教育システムの再構築」へと繋がると思っています。機関別認証評価から段階ごとの質評価への移行方策も、学位の質保証を実現するためのパラダイム転換と考えるべきではないでしょうか。
本協会の目的は、「大学・短期大学で学ぶ学生及び社会人に対する実務教育を行うとともに、実務教育に関わる研究の充実と向上を図り、もってわが国の教育文化の発展に寄与すること」にあります。この目的を達成するために、「実践力」「実務力」を中核とした資格教育課程の開発・実践と質保証に取り組んできました。歴代会長が進められてきた改革路線を継承しつつ、高等教育における実務教育及び資格教育課程の質保証を中核とした新しい価値創造=イノベーションを目指し、会員校の更なる発展に繋げていきたいと思います。会員校皆様の温かいご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。
2025年6月
代表理事・会長 清水 一彦